明日が来ないなんて
今日はいい日だった
昼食をとった後大型の公園に行き、キャッチボールとサッカーをした。適度な運動は気持ちがいいし、それぞれの技能に関しても上達が見られた。
その後は公園の近くで酒を呑んだ。酒も飯もうまく、話も楽しい。これがまたよい酒の席だった。
こうして私は前向きな気持ちで帰路につくことができた。しかも終電ギリギリセーフだ。今日は何もかもがうまくいった、そんな気分だ。ここのところ落ち込むことが多かった私は、それだけに今日という日がとても楽しかった。
最寄駅に着くと、近くのコンビニでカルボナーラを買い食べた。食べ終えると口直しにハーゲンダッツのクリスピーサンドを買い、食べた。酔って家に帰る際、時々私がすることだった。これはあまり自分でもいいことだと思っていない。腹がいっぱいの状態で飯を食うのは体に悪いし、余計なお金もかかる。何より、食べ終わった後に胃腸の調子を悪くすることが多いのである。
しかし今日は腹を壊すこともなく、無事家に着くことができた。しかし、反省はした。このことについてだけでない。私の人生そのものを振り返り、よくないところを考えてみた。思えば、私は無駄なプライドが高すぎるのではないだろうか。自分を過大評価するあまり、自分に及ばないと判断した人間や、自分を認めない人間を必要以上にぞんざいに扱ってきたような気がするのである。普段こういうことを考えると、気分は落ち込む。当然だ。しかし今日は気分が良かった。反省はしたものの、前向きにそれを捉え未来に生かそうという姿勢がとれた。
私は上機嫌のまま風呂に入り、手持ちのスマートフォンからお気に入りの曲をかけた。風呂に入る時は音楽を鳴らし、それに合わせて歌うのが最近の趣味だ。
酔っていると、周りの時間が早く進んでいるように感じる。今日は楽曲のペースも早く感じられ、愉快だった。最高の1日だった。
aikoの「明日の歌」を歌い終わった。そこで事件は起きた。風呂の外に気配を感じた瞬間、扉が開いた。家族は全員寝ているのを確認していた。誰かをうるさくて起こしてしまった可能性が高い、誰かというか母を…などと考えながら扉の方に振り向くと、そこにはやはり母の姿があった。
「うるさい」
「ごめん起こしたよねごめん」
「…ていうかあんたそれ(スマホ)何?防水じゃないでしょ壊れるでしょうが」
「うんいやごめん、水かからないとこに置いてるから大丈夫だと思う。おこしてごめんね」
「いやそういうことじゃないでしょ、早く寝なさい……」
扉が閉じた。
私は、静かになった湯船の中で沈黙した。
湯が急に冷めたように感じられた。先ほどまでの多幸感は消え失せ、虚しさだけがそこに残っていた。
何度も確認したが、昨日までに私の歌のせいで家族が起きたことはなかった。そのせいもあって完全に油断していた。きっと気づかぬうちに普段よりも大きな声を出していたのだろう。
大きな虚しさだった。
私は体を拭き、歯を磨くと早々に布団に入ってしまった。今日はあまりいい日として終わることができなかった