浮草日記

メルヘン系ブログ

ポエム

欠けた歯のふちを舌でなぞる。

 

鋭利で、ざらざらと無骨な感触。

 

少し扱いを間違えれば、自分の舌さえ傷つけてしまうだろう。

 

欠けた歯にとっては、それが自分の肉かどうかなんてどうでもいいことだ。忖度の介在する余地はない。

 

そこには歯のあるべき姿があり、野生がある、と思う。

 


柔らかく調理された肉でなく、自分以外の生を食いちぎるための器官。

 

自分さえ傷つけかねない無遠慮な野生。

 

それが本来の歯のあるべき姿だ。

 

サバンナに生きる肉食獣の生を支える牙。

 

他者を狩らずとも餌が手に入る我々は、いつしか牙を必要としなくなった。

 


そんなものが、今私の中にある。

 

私の中に間違いなく存在しているということが、なんとも不思議に思えた。

 


私は社会性ヒトである。理性的ヒトと言い換えてもいい。それは何も特別なことではなく、現代の我々は多くが社会性ヒトとして生きている。

 

社会性ヒトは、社会に牙を抜かれた動物だ。

 

他人に、自分に、ヒト種にとって危険でないように。脅かさぬようにと進化してきた結果が今の私の在り様だ。

 

野生を理性で抑えつける。抑えつけているうちにそれはどんどん小さくなっていく。

 

ついに野生は完全に潰えたように思えた。

 

つい先ほどまではぼんやりとそう思っていた。

 


しかし、野生は生きていた。

 

体の奥底に潜り込み、じっと息を潜めていた。
それを私が勝手に死んだと思い込んでいただけだ。

 

そしてそれは、今こうして突然姿を現した。

 


鼓動が少し早い。

 

野生が生きていた。

 

私の中で生きていた。

 

ふわついた高揚感と、曖昧なエネルギズム。

 

俺は今生きている。